
レンタル事業を新たに始めたり、既に運営していたりする中で、「事業は順調なはずなのに、何が良くて何が悪いのか具体的に説明できない」「次の打ち手は、勘や経験だけに頼って決めている」といった課題を抱えていませんか?
事業を感覚だけでなく、データに基づいて正しく成長させるために不可欠なのがKPI(重要業績評価指標)の設定です。
この記事では、レンタル事業特有のビジネスモデルを踏まえ、事業のフェーズごとに見るべき重要なKPIを分かりやすく解説します。自社の状況と照らし合わせながら、事業成長の羅針盤となるKPIを見つけましょう。
そもそもKPIとは?KGIとの違い
KPIの設定方法を見る前に、まずは基本的な用語の定義を確認しておきましょう。
KPI(重要業績評価指標)
KPI(Key Performance Indicator)とは、最終的な目標(KGI)を達成するための中間的な指標のことです。「プロセスの達成度合いを測るものさし」と考えると分かりやすいでしょう。
例えば、ウェブサイトからのレンタル予約数を増やすという目標に対して、「ウェブサイトの訪問者数」や「予約完了率(CVR)」などがKPIにあたります。
KGI(重要目標達成指標)
KGI(Key Goal Indicator)とは、事業における最終的な目標を定量的に示す指標です。
例えば、「年間売上1億円達成」や「業界シェア20%獲得」といった、具体的で分かりやすいゴールが設定されます。
KPIは、このKGIを達成するために設定される具体的なアクションの指標であり、「KGI(ゴール)に至るまでのマイルストーン」と位置づけられます。
- KGI:最終的に何を達成したいか(例:売上、利益)
- KPI:KGI達成のために何をすべきか(例:新規顧客数、顧客単価)
【事業フェーズ別】レンタル事業で見るべき重要KPI
レンタル事業は、その成長段階によって直面する課題や目標が異なります。そのため、KPIも事業フェーズに合わせて設定し、見直していくことが重要です。ここでは代表的な「立ち上げ期」「成長期」「成熟期」の3つのフェーズに分けて、それぞれで重視すべきKPIを解説します。
1. 立ち上げ期(事業開始〜PMF達成前)
このフェーズの目標は、まず市場にサービスを認知させ、顧客を獲得し、事業の仮説検証(PMF:プロダクトマーケットフィット)を行うことです。
赤字は許容しつつも、将来の成長に向けた基盤を築けているかどうかが重要になります。
KPI項目 | 計算式/指標の意味 | なぜ重要か |
---|---|---|
新規レンタル件数・顧客獲得数 | 一定期間内にレンタルサービスを初めて利用した顧客の数 | サービスの需要が市場に存在するかを測る最も基本的な指標。 |
資産稼働率(Utilization Rate) | (レンタルされている日数 or 時間)÷(レンタル可能な総日数 or 総時間) | 保有しているレンタル資産が、どれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す。低い場合は、在庫過多やマーケティング不足が考えられる。 |
顧客獲得コスト(CAC) | (広告費などのマーケティング費用)÷(新規顧客獲得数) | 一人の新規顧客を獲得するために、どれくらいのコストがかかっているかを示す。将来の収益性を予測する上で重要。 |
ウェブサイトCVR(コンバージョン率) | (レンタル予約完了数)÷(ウェブサイト訪問者数) | ウェブサイトの集客力や、サービスの魅力、予約プロセスの分かりやすさを測る指標。 |
立ち上げ期は、まず顧客にサービスを使ってもらうことが最優先です。
基本的な集客施策と並行して、これらのKPIを追いかけ、サービスの価値を検証しましょう。
2. 成長期(PMF達成後〜規模拡大フェーズ)
サービスが市場に受け入れられ、顧客が定着し始めるフェーズです。
ここでの目標は、事業を拡大し、収益性を高めていくこと。
新規顧客の獲得に加え、「いかに顧客に長く、多く利用してもらうか」という視点が重要になります。
KPI項目 | 計算式/指標の意味 | なぜ重要か |
---|---|---|
顧客生涯価値(LTV) | 顧客単価 × 収益率 × 顧客の継続期間 | 一人の顧客が、取引期間を通じてどれだけの利益をもたらしてくれるかを示す。LTVがCACを上回っていることが事業継続の条件。 |
リピート率/チャーンレート(解約率) | リピート率:期間内に2回以上利用した顧客 ÷ 全顧客数 チャーンレート:期間内に解約した顧客数 ÷ 期間開始時の総顧客数 | 顧客がサービスに満足し、継続利用しているかを示す。特にサブスクリプションモデルでは最重要指標の一つ。 |
顧客単価(ARPU) | 総売上 ÷ 総顧客数 | 一人の顧客あたりの平均売上を示す。アップセルやクロスセルの施策がうまくいっているかを測る。 |
在庫回転率 | 売上原価 ÷ 平均在庫金額 | 在庫がどれくらいの速さで売上につながっているかを示す。高すぎると機会損失、低すぎるとキャッシュフローの悪化につながる。適切な在庫管理が求められます。 |
効率的な在庫管理は、成長期の収益性を大きく左右します。
3. 成熟期(市場シェア安定〜事業多角化フェーズ)
市場での地位が確立され、安定した収益が見込めるフェーズです。
ここでの目標は、顧客満足度を維持・向上させながら、ブランド力を高め、長期的な収益基盤を盤石にすることです。
KPI項目 | 計算式/指標の意味 | なぜ重要か |
---|---|---|
顧客満足度(NPS®など) | NPS®:推奨者の割合 – 批判者の割合 (Net Promoter Scoreの略) | 顧客ロイヤルティを測る指標。「このサービスを友人に勧めたいか?」という質問で計測する。企業のブランド力や将来の安定性を示す。 ※NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。 |
営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 | 事業の本来の収益力を示す指標。コスト構造の最適化や価格戦略がうまくいっているかを判断する。 |
アップセル・クロスセル率 | アップセルまたはクロスセルに至った顧客数 ÷ 総顧客数 | 既存顧客からさらなる売上を生み出す能力を測る。顧客との関係性が良好である証拠とも言える。 |
KPI設定・運用のポイント
自社に合ったKPIを見つけたら、それを正しく運用していくためのポイントを押さえましょう。
SMARTの法則を意識する
効果的なKPIを設定するためのフレームワークとして「SMARTの法則」が有名です。設定したKPIが以下の5つの要素を満たしているか確認しましょう。
- Specific(具体的か):誰が読んでも同じ解釈ができるか
- Measurable(測定可能か):数値を定量的に測定できるか
- Achievable(達成可能か):現実的に達成できる目標か
- Relevant(関連性があるか):KGI(最終目標)の達成につながるか
- Time-bound(期限が明確か):いつまでに達成するのか期限が決まっているか
定期的に見直しを行う
一度設定したKPIが、永遠に最適とは限りません。
先に述べたように、事業フェーズや市場環境の変化に合わせて、KPIは柔軟に見直す必要があります。
四半期に一度、半年に一度など、定期的にKPIの妥当性を評価し、必要であれば変更するサイクルを確立しましょう。
ツールを活用して効率化する
KPIを管理するには、多くのデータを収集・分析する必要があります。
手作業での集計は時間がかかり、ミスも起こりがちです。
レンタル事業に特化した管理システムを導入することで、売上、顧客情報、在庫状況などを一元管理し、KPIの計測を自動化・効率化できます。
まとめ
今回は、レンタル事業におけるKPI設定について、事業フェーズ別に解説しました。
- 立ち上げ期:まずは顧客を獲得し、サービスの需要を測る(新規顧客数、資産稼働率など)
- 成長期:収益性を高め、事業をスケールさせる(LTV、リピート率など)
- 成熟期:顧客との関係性を深め、安定した収益基盤を築く(顧客満足度、営業利益率など)
KPIは、単に数値を追うためだけのツールではありません。事業の健康状態を診断し、チーム全員が同じ目標に向かって進むための「共通言語」です。
自社の現在のフェーズを見極め、適切なKPIを設定・運用することで、データに基づいた意思決定を行い、レンタル事業を成功に導きましょう。
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